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天体写真のスタック(合成)のしくみ

天体写真のスタックソフトは、同じ範囲の空を写した多くの露出を取り込み、星の位置を揃えて一枚の画像に合成します。星や星雲の光はどのフレームにも同じように写りますが、ランダムなノイズはそうではありません。フレームを合成すると前者は残り、後者の多くは平均化されて消えていきます。

天体写真のスタックソフトのしくみを示す図:ライトフレームを1枚ずつ撮影し、星の位置を合わせ、フレームを合成してランダムなノイズを減らし、結果を仕上げる
どのスタックソフトも、この4つのステージをたどります。以下の各セクションで、それぞれの中身を解説します。
かんたんな答え
  1. 同じ対象を、何枚かに分けて露出します。
  2. 必要に応じて、ダーク・フラット・バイアス・ダークフラットの補正用フレームを加えます。
  3. スタックソフトがフレームの位置を合わせ、同じ星が同じピクセルに来るようにします。
  4. 合成方式に従って各ピクセルをフレーム間で合成し、その結果をストレッチして仕上げます。

1. 1枚より複数のフレームが有利な理由

どの露出にも、2つのものが含まれています。空から実際に届いた光である「信号」と、センサーや光そのものが加えるランダムなざらつきである「ノイズ」です。信号はフレームが変わっても同じですが、ノイズは毎回異なります。

条件の揃ったフレームを平均すると、繰り返し写る信号はそのまま残り、ランダムな成分は部分的に打ち消し合います。ノイズはおおよそフレーム数の平方根に比例して減るので、4枚でノイズは1枚のときの約半分、16枚で約4分の1になります。だからこそ、合成は淡い対象でとくに効果を発揮し、フレームを1枚追加するごとの効果は少しずつ小さくなっていきます。

2. 位置合わせ:星を同じ場所に戻す

露出の合間に、空は回転し、架台はずれ、スマートフォンもわずかに動きます。フレームを合成する前に、スタックソフトは位置合わせを行う必要があります。各フレームで同じ星を見つけ、その星が重なるように画像を平行移動・回転させるのです。

  1. 星を検出する。すべてのフレームで星を探します。
  2. パターンを照合する。各フレームと基準フレームの間で、星の並びのパターンを照合します。
  3. 変形する。各フレームの星が基準位置に重なるように変形します。サブピクセル精度の位置合わせなら、星がわずかに流れることなく丸いまま保たれます。
  4. 品質を評価する。ぶれや雲があるフレーム、照合できた星が少なすぎるフレームには印を付けたり、除外したりできます。

位置合わせは星を基準にするため、木々の稜線や建物など、空と一緒に動かないものはフレーム間でずれてしまいます。地上の風景を前景に入れた広角写真で、空と地上を別々に処理する必要があることが多いのはこのためです。

3. 合成方式:各ピクセルをどうまとめるか

天体写真のスタックソフトというとき、多くの人が思い浮かべるのがこのステップです。フレームの位置が揃ったら、スタックソフトはすべてのフレームの同じピクセルを見比べ、どの値を残すかを決めます。人工衛星の軌跡、航空機の灯火、突風を受けたフレームなどの外れ値をどう扱うかは、方式によって変わります。多くのスタックソフトで見かける方式は次のとおりです。

平均
すべてのフレームの平均値です。すべてのフレームが良好なら最もきれいな結果になり、ほかの方式と比べる基準としても最適です。
中央値
真ん中の値です。単発の明るい・暗い外れ値を無視できますが、きれいな平均に比べるとノイズがやや多くなります。
カッパシグマ
ほかの値から一定の標準偏差以上離れた値を除外し、残りを平均します。ノイズ低減の効果をほぼ保ちながら軌跡を取り除く方式として、よく選ばれます。
最大値
最も明るい値を残します。ノイズ低減向けではありません。星の軌跡の写真では、位置合わせをせずに重ねたフレームにこの方式を使います。
エントロピー加重
画像の各領域で、より多くのディテールを含むフレームの重みを大きくします。フレームの品質にばらつきがあるときに役立つことがあります。
自動適応加重平均
各フレームがほかのフレームとどれだけ一致しているかに応じて重みを調整し、弱いフレームの影響を小さくします。

どんな場面にも最適な方式というものはありません。Astro Stacker では方式ではなくモードを選び、方式はアプリが自動で設定します。

  • 「クイック」はすべてのフレームを平均し、すばやく仕上がりを確認できます。
  • 「高画質」は標準のモードで、カッパシグマ除外を使い、最も弱い1割のフレームを省きます。
  • 「最高精細」もカッパシグマを使い、より時間をかけた精密な位置合わせを行って、最も弱い2割のフレームを省きます。

それぞれの使いどころは合成モードのガイドで解説しています。

4. 補正用フレーム:空ではなくセンサーを補正する

欠点の中には、すべてのライトフレームに繰り返し現れるものがあり、合成すると星と一緒に強まってしまいます。補正用フレームはそうした欠点を測定し、フレームを合成する前に取り除けるようにします。

  • ダークは、センサーを覆った状態で、同じ露出・同じ温度で撮影します。熱による信号やホットピクセルを補正します。
  • フラットは均一に照らしたフレームで、周辺減光やゴミの影を補正します。
  • バイアスはできるだけ短い露出のフレームで、センサーの読み出しオフセットを記録します。
  • ダークフラットはフラットの露出に合わせたダークで、フラット自体の補正に使います。

補正は最初の合成では使わなくても構いません。Astro Stacker Pro の機能です。ライトフレームと条件の合わないフレームは逆効果になることがあるので、補正した結果とライトフレームだけの合成を比べてください。

5. 何枚のフレームを合成すべき?

まずは1回のセッションで、1つの対象について撮れるだけ多くの、条件が揃ったシャープな露出を用意しましょう。ノイズはフレーム数の平方根に比例して減るので、10枚から40枚に増やすとはっきり差が出ますが、100枚から130枚に増やしても違いはほとんどわかりません。ある程度を超えると、フレームを増やすよりも、より暗い空、より正確なピント、1枚あたりの露出を長くすることのほうが効果的です。

枚数と同じくらい質も大切です。ぶれや雲の入ったフレームが数枚あるだけで合成結果がぼやけることがあるので、枚数を稼ぐために残すのではなく外しましょう。無料プランでは一度にライトフレーム10枚まで合成でき、Pro ではこの制限がなくなります。

6. 合成でできないこと

失われたディテールの復元
淡い構造がどのフレームでもノイズに埋もれていて、ピントも甘い場合、フレームを増やしても改善はゆっくりです。ピントを詰めることや、より暗い空のほうが効果的です。
追尾不良をそれだけで直すこと
位置合わせで補正できるのはフレーム間のずれで、1枚の露出の中で生じた星の流れは直せません。
光害の除去
夜空の明るさも信号なので、合成すると一緒に重なります。合成後のグラデーション除去は役立ちますが、最も効果的なのはより暗い場所で撮ることです。
仕上げの代わり
合成したままの画像は、たいてい暗くて平板に見えます。Astro Stacker の自動ストレッチのようなストレッチ処理で、淡い信号が見えるようになります。

iPhone・iPad でも同じパイプライン

Astro Stacker は、読み込み、位置合わせ、補正、合成、仕上げ、書き出しというこのパイプライン全体を、iPhone・iPad の端末上で実行します。Pro では無料プランのフレーム数の制限がなくなり、RAW、FITS、補正が加わります。各ステージは機能ページで順に紹介しています。